我々の研究室では、これまでに高電圧工学や誘電絶縁材料の分野で培ってきた技術を基盤に、これらをナノテクノロジーやバイオテクノロジーの分野に応用展開することで境界分野の研究テーマに積極的にチャレンジしています。
我が国では高度経済成長期の電力需要の増大に合わせ、1970年代以降に電力インフラも拡充されました。近い将来、再生可能エネルギーの大幅な導入や電気自動車の普及などが見込まれていますが、高品質な電力を安定して供給することは今後益々重要となります。
設置から30年以上が経過した高経年機器の増加と電力自由化によるコスト削減の流れの中、これら電力設備の効率的な診断技術の重要性が高まっています。
我々は、「誘電泳動」と呼ばれる静電気現象に着目し、これをカーボンナノチューブなどのナノマテリアルの操作技術として応用することに世界に先駆けて成功しました。図1はその成果の一例であり、誘電泳動によってカーボンナノチューブをマイクロ電極に集積して作製したガスセンサです。SF6ガスで絶縁されたガス絶縁機器(GIS)の内部で異常放電が起きるとHFなどのSF6ガス分解ガスが発生することが知られていますが、同センサはこれら分解ガスを高感度に検出することができます。このようなセンサを多数電力設備に取付けIoT技術と組み合わせることで、電力設備の高信頼化やメンテナンスの省力化・低コスト化に貢献できます。
ナノマテリアルの静電操作は、ナノコンポジット材料の性能向上にも応用が期待されています。例えばカーボンナノチューブをフィラーとしてエポキシなどの誘電絶縁材料に充塡することで、電気伝導性や熱伝導性が向上することが分かっています。この際、静電気力によってカーボンナノチューブを電界方向に配向させることで、少ない充塡料で大きな特性向上が得られます(図2)。このようなナノコンポジット材料は、高エネルギー密度化が進む電気自動車のパワーコントロールユニットの放熱材料などへの応用が期待されています。