近年、太陽光発電や風力発電といった自然エネルギー利用型分散電源の電力系統への導入が急速に進んでいます。しかしながら、電気エネルギーは既に現代社会を支えるためになくてはならない存在となっており、電力システムは、信頼性、品質共に優れた電気エネルギーを社会の隅々まで常に送り届ける重要な責務を持っています。自然エネルギー利用型分散電源の弱点は、文字通り自然エネルギーの変動に依存してその出力が変動する点にあります。そのような不確実な電源が増える状況下でも社会が求める電気エネルギーを安定して送り届けるためには、周波数維持や電圧維持などを目標に、高度な制御技術を駆使して技術課題に取り組むことが喫緊の課題といえます。
一方、パワー半導体デバイスの大容量化と電力変換技術の進展を背景に、大容量の自励式電力変換器が電力系統制御用途に実用化されつつあります。これは、いわゆる「電力」の制御の自由度が飛躍的に高まってきていることを意味します。また、蓄電池の大容量化等、エネルギー蓄積技術の発展により、「エネルギー」を分散配置することが容易になってきています。このエネルギー源と自励式電力変換器の制御性能を組み合わせることによって、パワーエレクトロニクスを応用した電力系統の制御技術はその可能性を大きく広げた状態にあるといえます。
そこで、これまでは自然エネルギーに応じた発電のみを行ってきた分散電源に対して、電力系統と協調し、共にその安定運用に貢献するような制御を実装することを研究目的として、パワーエレクトロニクス技術を活用した分散電源と電力系統の協調制御に取り組んでいます。
まずその一つとして、分散電源の連系インバータの出力電圧制御に工夫をして、電力系統の周波数と電圧を少しでも改善できるよう試みています。具体的には、周波数が低下しているときには発電電力が不足していますので、需要に応えるべく、出力電圧位相を少し調整して出力を増加させます。周波数が上昇しているときは、その逆で、出力を減少させます。一方で、電圧の調整のために連系インバータの出力電圧振幅を補正します。この制御の特徴は、協調制御の強さを連系インバータ自身が単一のゲイン調整で独自に調整できる点にあります。分散電源が電力系統と協調することはつまり、分散電源は何らかのエネルギー源を背景に出力有効電力を調整しなければならず、その大きさは利用可能なエネルギーによって制約を受けるからです。提案している制御方式では、利用可能なエネルギーに応じてゲインを柔軟に調整することで、分散電源自身が制御可能な範囲内で電力系統と協調することを目指します。
次に、複数の分散電源や蓄電池などを組み合わせて発電所のように制御する、バーチャル・パワー・プラントを構成して、上で述べた制御を効果的に実現する方法も模索します。これが可能になれば、協調制御の合計電力容量は増加しますので、制御効果の向上が期待できます。
以上で提案した制御は、シミュレーションによる電力系統解析をはじめ、模擬実験用インバータに制御系を実装して試験を行うことと合わせてその妥当性を評価していきます。