私の専門の電力システム工学という分野は、我々の生活に欠かせない電力エネルギーを「つくる」、「送る」、「使う」といった全てを管轄する学問です。研究室では、「臨界トラジェクトリー法」など世界でもここだけのシステム解析法を開発するなど、豊富な研究実績があり、これらを解析ツールとして利用しながら、将来の電力システムで再生可能エネルギーを高度に利用する新技術を研究しています。国土全体にわたる大規模で複雑な電力システムから、小規模なマイクログリッドまで幅広いテーマに取り組んでいるのも研究室の特徴で、いかにしてスマートな電気エネルギーシステムを構築、運用、管理していくかを考えます。
最近、「スマートグリッド」という言葉が世界中で用いられていますが、「スマート」とは、情報通信技術を駆使してエネルギーの総合的な利用効率を高め、システムの信頼性や安定性を保証して、安心・安全にエネルギーを使う技術です。これには不安定な再生可能エネルギーを有効に使う技術が重要です。しかし、電気エネルギーシステムの信頼性や安定性を維持することは、実は大変難しいことです。例えば、送配電線を直撃する雷や事故で停電が発生するように、天気まかせの太陽光発電など予測が難しい環境構造に由来する外乱が増加し、信頼性・安定性に関する多くの問題を引き起こしています。そして、これをいかにスマートに解決するかが世界中の課題となっています。
研究に関して、電力システム解析、計画、運用、制御に関連する豊富な開発法の蓄積があり、現在はこれらを機能追加しながら汎用的な解析ツールとして再構築し、次世代環境における最適化に取り組んでいます。たとえば、需給制御マネージャ(図)は、太陽光発電量の予測、発電機起動停止計画、リアルタイム運用と制御に関するソフトウエアの集合体で、大規模システムやマイクログリッドの計画、運用、制御に関する研究や安定性や信頼性に関する課題解決を行っています。
最近では、再エネ導入に伴うスマート化の研究を推進すべく、系統の安定化機能を持つ新形インバータを開発しています。これは家庭レベルの小容量のインバータで、電力システムの信頼性・安定性の向上に加えて、大災害時の電力供給手段としてマイクログリッド構築を可能にするという二兎を追う欲張りな構想に基づいています。研究室でハードウエアを構築し、実証実験に基づき、必要機能の追加などを行っています。
研究室では従来ソフトウエア的な視点でシステム全体に関連する課題解決に取り組んできましたが、最近では新形インバータなどハードウエアにも手を出すようになり、全体のシステム構築の最適化を以前よりも的確に議論できるようになりました。これより、現在、両者の技術を合体して、いかにしてスマートな電気エネルギーシステムを構築、運用、管理していくかを最適化の視点で考えています。

