持続的発展を可能とする社会の形成において、二酸化炭素による地球温暖化問題の解決は不可避です。日本政府は2050年に二酸化炭素の排出量を2005年に対して80%削減する目標を掲げています。現在の生活レベルを維持したままでこの目標を達成することは容易ではありません。アプローチとして二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーによる創エネと、エネルギー使用量自体を減らす省エネがあります。エネルギーの利用形態の中心が電力となっている現在、これらのアプローチにおいて電力の変換・制御が必須であり、これを可能とするのがパワーエレクトロニクスです。
パワーエレクトロニクスでは、半導体デバイスをオン・オフのスイッチとして利用することで電力変換を行います。ただし半導体デバイスだけでは電力変換は実現できず、コンデンサやリアクトルなどの受動素子と組み合わせて動作させることが必要となります。高速なスイッチング動作ができると、回路の動作周波数も高くすることができ、コンデンサやリアクトルなどの受動素子も小さくすることができます。このため高周波数での動作は、回路及びシステムの小型軽量化にもつながります。同じ電力を使用するにしても、回路の電圧を高くして電流を小さくしたほうが、配線での導通損失が小さくなります。しかしながら高耐圧の半導体デバイスは、オン・オフを切り替えるスイッチング速度が遅く、また導通損失も大きいといった問題がありました。このため従来のSi半導体に代わり、SiCやGaNといったワイドバンドギャップ半導体が注目されています。これらのワイドバンドギャップ半導体を用いることで低導通損失かつ高速スイッチング動作可能な高電圧の半導体デバイスを実現できます。ただし、単に従来の半導体デバイスを置き換えるだけではワイドバンドキャップ半導体デバイスを使いこなすことができません。取り扱う電圧や電流が大きくなると、スイッチング動作に伴って生じる電磁ノイズも大きくなります。電磁ノイズは周りの機器の誤動作を引き起こすだけでなく、自分自身の動作にも影響を与えます。このため電磁ノイズを生じないような電力変換回路の設計が必要となります。これに必要なのがパワーモジュールです。パワーデバイスと周辺回路をモジュール化することにより、電力変換システムを小型化して電力密度を高めるだけでなく、寄生インダクタンスを低減でき電磁ノイズの発生を抑制することができます。ただしワイドバンドギャップ半導体デバイスを用いても損失が無くなるわけではないため、小型化による発熱密度の増加が問題となります。このため電気と熱の複合領域でのシステム設計が必要となります。また高周波動作において、コンデンサやリアクトルなどの受動素子で生じる損失を低減し、理想的な回路動作に近づけるためには、受動素子を構成する材料や形状だけでなく回路への実装方式も重要な設計項目となります。
我々の研究グループでは、これらの問題を解決した高性能なパワーエレクトロニクスシステムを実現するために必要なパワーモジュールやシステムの設計を行い、実証実験によりその効果を示しています。