エネルギーデバイスへの応用を目的としたイオン導電性高分子薄膜の研究開発が特に盛んであるとする炭化水素系高分子電解質は、合成が容易で構造の自由度が高く、薄膜にしても高い機械強度を保持できる、など優れた特徴を持ち活発に行われているが、イオン導電性と安定性を共に発現するための分子設計指針が明確になっていない。
我々はイオン導電性高分子薄膜に関する研究を行っており、燃料電池の高性能化を実現する材料開発や新知見の創出に貢献してきた。例えば、図1に示すベンゼン環とスルホン酸基のみからなるポリフェニレン型電解質(SPP-QP)の開発に成功し、これがプロトン導電性高分子薄膜として優れた特性と安定性を示すことを見出した。従来のフッ素系電解質膜と同程度の導電率と化学安定性を、非フッ素系高分子で初めて達成した例として大きな注目を集めている。燃料電池として用いたところ図2に示すように高い開回路電圧、低い電池抵抗、そして低湿度条件でも良好な発電特性を示した。薄膜の劣化を加速する開回路電圧保持試験においても1000時間以上の優れた耐久性を実証した。
これらの知見を一層発展して、プロトンが固体高分子中を酸性水溶液中と同じように「高速移動」する機能と、多量のプロトンが「高密度凝集」する機能を融合して、薄膜内部および界面におけるプロトン伝導や多電子移動過程を自在に制御することを検討している。高次水素機能の組み合わせで、エネルギー分野のパラダイムシフト(従来材料・技術では見通すことができない高出力密度と高エネルギー密度を併せ持つ電池)に繋げるとともに、新しい水素科学(ハイドロジェノミス)の学理構築を目指す。