東北大学の電力ネットワークシステム分野の研究室では、主要な研究テーマとして、需要応答、災害時の電力供給システム、電力システムの実時間安定度監視を取り上げ、研究を行っている。以下に、それぞれのテーマの概要を紹介する。
第1の研究テーマは、需給・周波数制御を支援する高速な需要応答(直接負荷制御)を実現する方法である。太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギー電源の系統連系量が増加すると、これらの電源の気象に依存した間欠性出力変動により、需要と供給のバランスが崩れやすくなる。またこれらの電源が増加すると、需給調整能力(瞬動予備力など)を提供する火力発電機の稼働台数が減少し、その結果、需給平衡を維持する能力が低下して周波数変動が増大する。この需給調整能力不足を回避するため、本研究室では、多数の需要家が所有するヒートポンプ式空調機を用いた高速需要応答の応用方法を提案している。図1は、その高速需要応答の効果を評価するために開発した、実機の地中熱ヒートポンプを使用した需給・周波数制御に関するリアルタイムシミュレータの構成である。
第2のテーマは、災害時に電力供給を行うためのレジリエント電力システムを技術的に実現する方法である。大地震や大津波などの大規模自然災害が発生すると、大型の発電所や送電線が被害を受けるリスクが高く、その被害が甚大であると、多くの人々が数日間にわたり停電を経験する危険性がある。このような停電を避けるため、本研究室では、被害を受けなかった健全な配電線とそれに接続している太陽光発電や電気自動車を活用して、一時的に小規模電力ネットワークを構成し局所的に電力供給を行う方法を検討している。図2はそのような電力供給システムの基本構成を示している。
第3の研究テーマは、電力ネットワーク内の主要な送電線を流れる有効電力の小さな変動から大規模電力システムの安定性を実時間で評価する方法である。近年、多数の送電線を流れる電力の変動を同時刻で計測し、その時系列データを中央給電指令所などで収集できるGPSを利用した計測システムが開発・導入されてきている。このような計測システムから収集されたデータを利用して大規模電力システムの安定性を左右する弱制動電力動揺の減衰特性を評価する方法を研究している。