行政処分の特殊な効力の理論的分析
私たちの身の回りは、ごく一例に過ぎませんが、道路交通法、建築基準法、消防法、食品衛生法、道路法、所得税法等の各種租税法など、極めて多くの行政法規の規制の編みに覆われています。これらの多様な行政法規を貫いて共通に存在しているのが、そうした法令を行政庁が具体的な個別的事例に適用して国民の自由や権利の範囲を具体化したり確定したりする行政処分です。上述の例でいえば、公安委員会が自動車の運転をしようとする者の申請に基づいて行う免許の交付やその停止・取消しであり、保健所の所長が行うレストランの営業許可やそこで食中毒事故が起きた場合の営業停止命令であり、道路を占用して行う催事のための道路管理者による占用許可あるいは不許可、許可の取消しなどであり、所得をごまかしてなされた納税申告について正しい納税額を確定してその納税を命ずる更正処分などです。
私の研究テーマは、こうした多様な行政処分について共通に生ずるとされている「公定力」と「不可争力」の効力の問題です。「公定力」とは、行政処分の法的効果は、たとえそれが違法であっても当該処分の取消争訟手続を通じて取り消されるまではその効力が通用するという効力のことです。そして「不可争力」とは、そうした「公定力」によって通用する行政処分の効力を特別に消滅させる取消争訟手続の争訟提起期間を徒過した後は、国民は当該処分の法的効果の覆滅をもはや権利として請求することができないという効力を意味しています。こうした行政処分の特殊な効力は、行政処分の法的効果の早期実現や、行政処分によって形成変動される法律関係の安定性の確保の要請から伝統的に認められてきたものですが、法律による行政の原理や行政処分によって制限される国民の権利の保護と緊張関係に立つことは否定できません。私は、こうした行政処分の「公定力」や「不可争力」の範囲を厳格に見定める法理論を追究する研究を行っています。
さて、「エネルギーイノベーションの社会科学」の科目では、私は、「電源立地に関わる行政法」のテーマで講義を行います。この講義では、まず、立法権・行政権・司法権という3種の国家作用が、国・都道府県・市区町村という3層の統治機構の下で、どのような機関によって行使されているかを概観します。次に立法作用の結果として制定される様々な法源、すなわち国レベルの法律とその委任を受けて制定される行政立法(政令、省令、規則)、地方公共団体レベルの条例と規則、そして法規として国民に対する効力を直接には持たない行政規則(訓令、通達、要綱、要領など)の形式を整理した後、発電設備に関する電気事業法とその下位法源を紹介します。さらに、発電設備の設置には、電気事業法に基づく届出のほか、土地の取得、土地の整地、土地の利用変更、施設の建設を要する訳ですから、それらに関する各種の法律の規制を受けます。のみならず、自然環境保護、公害防止、農業保護、漁業保護等に関する多種多様な法律もあり、それらを定めるルールも遵守しなければなりません。この講義では、そうした法令を概観します。そして、それらの法律が定めている規制の仕組み、すなわち届出、許可、認可などの事前規制と下命、取消・撤回などの事後規制、それら規制を担保する罰則などのサンクション、そして行政手続法等の定める規制に関する手続ルールを解説します。最後に、メガソーラを例にして、それら各種の法律の規制内容を具体的にまとめて解説します。
人見 剛
ひとみ たけし
早稲田大学 大学院法務研究科・教授
プログラム担当者
専門:行政法、地方自治法
- KEYWORD
- 行政処分の効力論
地方自治法制の現状と課題
日本とドイツの比較行政法学史
- 略歴
- 1959年 東京生まれ
1982年 早稲田大学法学部卒業
1999年 東京都立大学法学部教授
2005年 北海道大学大学院法学研究科教授
2010年 立教大学法務研究科教授
2014年 早稲田大学大学院法務研究科教授
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