私たちは、クリーンエネルギーシステムの実現に貢献すべく、ナノ材料の実用合成とエネルギーデバイス応用を研究しています。人類は20世紀には多様な元素を用いて物質的豊かさを実現してきました。しかし、物質・エネルギー資源の有限性が顕在化し、方針転換を迫られています。炭素や珪素などの“ありふれた元素”を用いても、ナノ構造を変えると多様な機能を実現できます。素晴らしい機能を持った新材料が日々報告されていますが、一方で“小さいモノ”を大きく作ることは困難で、“ナノテク”の実用化は未だ限定的です。ナノ材料が“なぜ”できるかを理解し、“どう”作るかを自由に発想し、良いモノを上手に作ることで、持続可能な技術社会へ貢献したく考えています。
カーボンナノチューブ(CNT)は、nmの細さとmmの長さを持つ1次元ナノ材料です。物理・理学分野により特異な性質が明らかにされ、多様な用途が提案されています。一方で、短径・良質なCNTは少量しか作れず貴金属と同様に高価、応用は進んでいません。ものづくりでは化学・工学が主役、私たちは流動層法にて数100 μmと長尺で99 wt%以上と高純度の数層CNTの高収率半連続合成技術を開発し、産学共同研究で実用化を目指しています(図1)。
リチウムイオン電池に代表される蓄電池は、自動車の電動化や再生可能エネルギーの利用拡大に欠かせません。現状は金属箔集電体の上に活物質を保持した電極により電池は作られていますが、私たちは金属箔の代わりに、上述の長尺・数層CNTを分散・ろ過して作ったスポンジ状の自立膜を集電体に用いた新規構造の蓄電池の開発に取り組んでいます。金属箔は重く、表裏2面しか持ちませんが、CNT膜は軽く、見た目の数千倍の内部表面積を持ちます。個々のCNTに対して薄く活物質を保持しても全体として多量の活物質が保持でき、また導電性に乏しい活物質の性能を引き出すことができます(図2)。
太陽電池は再生可能エネルギーの利用拡大に欠かせません。導入拡大に伴い系統接続制限の問題も顕在化しています。もし画期的に安くなれば、必要な時だけ売電してもよく、接続制限の問題も解決できる筈です。私たちは高純度Siの利用効率を数十倍に高めるべく、高結晶性Si膜の1分蒸着技術を開発しました。また、n-SiへのCNTやp型有機半導体の塗布による接合形成技術も開発しています。新聞を印刷するように簡易に安価に高速に太陽電池を作るべく研究開発を進めています(図3)。