気候変動対策として、温室効果ガスの排出量の削減が求められている。気候変動枠組条約のパリ合意のスキームで、排出削減目標の設定がなされ、この実現のための努力が求められている。これを実現するには、省エネルギーの推進とエネルギー源の非化石化が主要な施策となる。政府のエネルギー基本計画でも示されているように、2030年には、電力の44%を非化石価値を持つ電力、すなわち、再生可能エネルギーあるいは原子力によって発電された電気とすることが計画されている。しかし、2011年の福島第一原子力発電所事故以降、原子力発電に対する国民の信頼は失われてしまった。原子炉等規制法による規制も強化され、いわゆるバックフィット規制も導入されたために、原子炉の再稼働もなかなか進まない現状がある。この規制の仕組みを法的に分析するとともに、国民あるいは住民による社会的な需要の実態について研究している。使用済み核燃料の最終処分や核燃料サイクルの問題まで視野に入れて検討する。もう一つの非化石価値を有する電気である再生可能エネルギー電気の普及のためのスキームも、各国の事例あるいは法制度との比較も含めて検討する。日本ではRenewable Portfolio Standardの仕組みが法的に導入されていたが、成功したとはいえず、福島第一原発事故後にFeed-in Tariffの制度にとってかわられてしまった。しかし、不安定な自然エネルギー電気に対する出力要請がなされたり、再エネ賦課金の高騰を避けるために買取価格が低く抑えられたりするなど、問題も多い。その中で、電力市場の自由化が進められてきている。原子力、再生可能エネルギーそして電力市場の改革の関係性を分析し、気候変動問題の緩和に相応しい電力システムのあり方について、研究している。
私は、行政法学の研究から研究者生活をスタートさせました。若いころは、大気汚染、水質汚濁あるいは廃棄物処理などの公害規制にかかわる法制度について、アメリカの法制度との比較を中心に研究しました。その後、自然保護、気候変動そしてエネルギーにかかわる法制度へと研究の領域を広げてきました。近年では、世界で成功した環境法制度がどんどんと制度化されているオーストラリアや中国の環境法を比較法の対象に加えています。