エネルギー消費60%を占める動力系の高効率化はインバータの普及により進んでいるとされるが、自動車、電車は別として、工場、病院等での大型駆動系を利用する現場での普及率は必ずしも高くない。原因は大型駆動用インバータからのサージ電流および電磁ノイズである。これらの影響は周辺の制御系での誤動作の原因となる。サージ電流や電磁ノイズの除去に様々な対策が、電気自動車では施されている。つまり、「インバータ自体は環境に決して優しくない。」インバータの電圧出力は矩形パルス幅による変調(pulse width modulation: PWM)で得られるが、これが本質的な問題である。例えば、電磁ノイズの主原因は、この矩形電圧出力は高調波成分である。これは、モータ駆動においてコイルの短寿命にもつながる。「理想のモータ駆動は正弦波電圧での駆動」なのである。そこで、正弦波高電圧(500-1000 V)でのインバータ出力が望まれる。正弦波はローパス・フィルタにより高調波を遮断すれば得られるが、高電圧フィルタは周波数が低い(10 kHz以下)と非常に大型になる。1MHz以上の高周波であれば、フィルタは小型化可能であり、コンパクトかつノイズフリーのモータ駆動は正弦波高出力インバータの高周波化(1MHz以上)により達成される。しかし、「1MHz以上で動作する500-1000 Vのインバータは世の中にまだ存在しない。」
そこで、半導体の種類、回路構成から抜本的に構成し直したのがワイドバンドギャップ半導体(SiC、GaN、ダイヤモンド)を利用した相補型電界効果トランジスタ(Complementary Field Effect Transistor、 C-FET)である。これによるMHz高速スイッチングにより、相補型高速高電圧インバータを開発する。従来のkHz台のインバータ出力では、フィルタが巨大であるが、高電圧相補型インバータの高周波出力は小型正弦波フィルタより正弦波電圧出力に変換され、 電磁ノイズ、サージ電流の原因である高調波の除去が容易となる。n型チャネルFET(n-FET)が上下両アームに接続されている従来型インバータと異なり、相補型インバータは、n-FETとp型チャネルFET(p-FET)からなる。上段p-FETのソース電位が高電位に、下段n-FETのソース電位が低電位に固定されるソース固定相補型インバータ(図1)では、ゲートドライブ回路の電位が固定され、昇圧降圧用のブートストラップ回路がなく、大電圧(50-1000V)の高速動作に適する。このような中高電圧回路を相補型にしたインバータやコンバータはこれまでほとんど開発されたことがない。その理由はn-FETと同等の性能をもつ高電圧p-FETが存在しなかったためである。「p-FETとしてはSiC あるいはGaN のn-FETに近づき、凌駕する潜在力のあるダイヤモンドを検討し、ワイドバンドギャップ p-FETとn-FETからなる高速高電圧C-FETを開発し、高電圧正弦波インバータを作製する。ワイドバンドギャップ半導体による相補型インバータによるMHz台のインバータ出力を実現し、超小型の正弦波フィルタで高調波を除去し、モータ駆動の理想である正弦波高電圧出力を可能とする。周囲に優しい動力系社会に貢献する。
