レドックス活性高分子を用いた有機電池の創製
有機分子には電気化学的な可逆性を示すレドックス活性種が数多く存在するが、電極活物質として充放電を担うためには、①材料として大量の電荷保持に繰り返し耐えられる化学的ロバスト性、②集電体との界面だけでなく活物質全体で厚みを持った電荷貯蔵を可能とする電荷補償イオンの易動性、③正・負極が電解質層で隔てられた電池構成を維持するための電解液に対する適度な膨潤度などが重要であり、材料としての扱いやすさ、素性の良さも求められる。我々は、レドックス活性な有機ポリマーを用いてこれらの課題を解決しようとしている。これまで、酸化・還元(電極活物質としてみれば充電・放電)の両状態におけるロバスト性、すなわちレドックス反応の双安定性に着目して、有機安定ラジカル種やキノン、ビオロゲン、イミド、チアントレンなどがレドックス活性種として有用であることを明らかにしている。これらは電位や対イオンの種類に応じて正極、負極あるいはその両方に用いられ、対イオンによる電荷中和(補償)が十分に追随している場合には、構造式に合致したレドックス容量と電圧変動の小さいフル充放電が観測される。
有機材料としての成形加工性や簡便な湿式製造工程への適合性に加え、このような電荷補償過程を可能とする性質は、レドックス活性種を非共役ポリマーに組み込むことによって付与される。ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリノルボルネン、ポリスチレン、ポリエーテルなどの主鎖構造がこの目的に対して有用であり、電荷蓄積容量の観点からはコンパクトな単位構造を持ったポリマーが選ばれる。
高密度レドックスポリマーへの蓄電は、レドックス活性基間の自己電子交換反応によって進行する。このような化学反応に基づく電荷の輸送と貯蔵は、ポリマーが電解質で十分に可塑化され、対イオンによる電荷中和が追随する場合に可能となる。電荷輸送の駆動力はレドックス種の濃度勾配であり、その過程は電荷拡散として記述され、レドックス活性基のブラウン運動性が拡散性を支配することを明らかにしている。ドープ状態の共役系ポリマーにおける導電性と比較して、移動度は高くないもののキャリア密度が極めて高く、結果として、急速充電に求められる高い電流密度が実現する。
有機電池の蓄電形式は、電荷補償イオンの極性によって決まる。電気的に中性の分子からアニオンを与えるポリマーでは、Liイオン電池と同様にLi+によるロッキングチェア型の蓄電になる。中性からポリカチオンを与えるポリマーは対アニオンにより電荷補償され、両者を組み合わせると両イオン型で蓄電される。このような有機活物質を用いて、従来概念に捉われない新型の電池を提案している。例えば、高密度レドックスポリマーの微粒子は、電解液に分散するとその表面部位だけでなく内部まで粒子全体として蓄電するので、レドックスフロー電池の高容量活物質として有用である。分散粒子の形態では多孔質セパレータを透過して対極の電解液と混ざることがなく、溶存ポリマーに比べ粘性損失も低減する。ポリマーの溶解度限界を超えて容量密度を高められることも利点である。
高密度レドックスポリマーの新たな機能として、リチウム金属酸化物に対し結着剤のように少量複合させるだけで高速充電が可能になることを見いだしている。これは無機活物質よりも貴な電位にチューニングされたポリマーが集電体や導電助剤との間に介在することで、電子移動メディエータ(電極触媒)として働くことによる。このような有機・無機ハイブリッド電極活物質への展開は、接着性が高く多様な複合材料を与えうる有機材料ならではの利点であり、電荷輸送能や無機活物質の体積補償能を有する機能性結着剤などとしての応用も検討している。柔軟で伸縮自在の電池など、無機活物質では考えられない形態の有機電池も可能になっている。
小柳津 研一
おやいづ けんいち
早稲田大学 大学院先進理工学研究科 応用化学専攻
先進理工学専攻・教授
プログラム担当者
専門:高分子化学
- KEYWORD
- エネルギーに関連した機能性高分子の開拓
非共役レドックス高分子による電荷輸送・貯蔵
有機電極の設計と有機二次電池への展開
- 略歴
- 1992年04月-1995年03月 日本学術振興会 特別研究員 (DC1)
1995年04月-1997年03月 早稲田大学理工学部 助手
1997年04月-2003年09月 早稲田大学理工学総合研究センター 講師
2003年10月-2007年03月 東京理科大学総合研究所 助教授
2007年04月-2012年03月 早稲田大学理工学術院 准教授
2012年04月- 早稲田大学理工学術院 教授
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