物理学・化学・生命科学にまたがる物性科学、キラル科学、結晶光学の分野における、物質・材料に関する実践的基礎研究に取り組み、とくに、無機・有機の結晶、薬剤、自己集合体やタンパク質の光学的・物理化学的・細胞生物学的性質の解明を目指しています。
・G-HAUPによるキラル光学的研究
円二色性や光学活性といった「キラル光学的性質」は、それぞれ誘電率の反対称成分の実部と虚部であり、空間反転対称性の破れに起因した分子および結晶構造のキラリティや原子のミクロな位置の変化 (空間分散)を反映することから、その測定は重要です。しかしながら、キラル光学的性質は、それより100-1,000倍ほど大きな直線複屈折や直線二色性といった「光学的異方性」の影響により、固体の測定は困難とされていました。われわれは、「一般型高精度万能旋光計」(Generalized-High Accuracy Universal Polarimeter:G-HAUP)と呼ばれる光学測定装置を開発し、固体の光学活性、円二色性、直線複屈折、直線二色性の温度依存性と波長依存性を全自動測定することを可能としました。これまでに、HAUPを用いて、強誘電体の構造相転移や分域構造に関する新しい知見を見い出したり、アミノ酸・タンパク質などの絶対キラル構造の決定に取り組んできました。現在、Bi系Cu酸化物高温超導伝導体、自己集合体、キラル結晶などにG-HAUPを応用し、多様な物性とキラル光学的性質との関係の理解を目指しています。
・フォトメカニカル結晶
2007年にジアリールエテン結晶に紫外光を照射すると、結晶が屈曲するという「フォトメカニカル効果」が報告されたことにより、それまでの結晶に対する既成概念が覆されました。われわれは、アゾベンゼン、サリチリデンアニリンなどの有機結晶において、フォトメカニカル現象を見い出し、さらに、光だけでなく熱によっても動く結晶を発見しました。現在、光と熱を組み合わせて多様な動きを示すメカニカル結晶について、ナノ・ライフ創新研究機構の小島教授とともに研究しています。
・自己集合体内での可逆的光反応
可逆的に重合・解重合可能な有機分子は再生可能材料として、低炭素社会に貢献すると期待されています。これまでに、可逆的に光重合する分子が報告されており、環境への負荷が少ない重合法とされています。しかしながら、その光重合反応は結晶中においてのみ進行するものと適応範囲は限定されていました。われわれは、モナッシュ大学Saito准教授とともに、その適応範囲を水中で自己集合体を形成する双頭型両親媒性ビスチミン誘導体に広げ、自己集合体形成と光化学反応性との関係を解明することを目指しています。
・薬剤のキラリティの研究
難治性疾患の治療に有効であるサリドマイドなどのキラル薬剤の構造とキラリティの関係の解明やそのキラリティが反転するラセミ化反応の活性化エネルギーに着目した研究に取り組んでいます。
・精神神経疾患の分子メカニズムの解析
精神神経疾患の発症に関わるタンパク質セレブロン(Cereblon)の機能解析により、精神遅滞における分子メカニズムの解明やサリドマイドによる治療法に関する研究をナノ・ライフ創新研究機構の澤村教授とともに進めています。