サステナブルな社会実現に向け、電気エネルギーシステムは大変革の時代を迎えています。太陽光・風力発電など変動性再生可能エネルギー(VRE)が中核電源になり、エネルギー利用の電化とともに、蓄電池、電気自動車など充放電できる機器が需要側に大量に入ってきます。電力会社の大規模アセットに全面的に依存するのではなく、需要側の分散型・プロシューム型のエネルギー資源が主役となるシステムへと変貌しつつあるのです。
将来の電気エネルギーシステムでは、発電事業者、小売事業者に加え、需要側リソース(DSR)を複数束ね電力系統運用者や需要家へ価値を提供するサービス事業者が、電気をやり取りする仕組みになると考えられます。これを物理的に仲介するのが電力系統(グリッド)、売買を成立させるのが電力市場(マーケット)です。電気は通常のモノと異なり、発電と同時に消費されなければならず、またグリッドには電気を流せる量に制約があり、VRE、DSRの増加とともに、これらの制約を満たすことが困難になるのです。今後目指すのは、各ステークホルダーがwin-winになり、同時に社会コストを最小化する電力市場制度の設計とグリッドの計画・運用方法の確立です。
パワーエネルギープロフェッショナル(PEP)は、このような将来に対応する技術やルールメーキングを追求する学理であり、林研究室と合同で以下のテーマに取組みます。
①ディマンドリスポンス(DR)/バーチャルパワープラント(VPP)の研究
将来の電気エネルギーシステムの鍵は、需要側リソースを束ねて大きな容量とし、全体として発電機同等の価値を発揮させる技術です。これは、需要側の能動的な機能であるためディマンドリスポンス(DR)、また、疑似的な発電機を生み出すということからバーチャルパワープラント(VPP)とも呼ばれます。需要側リソースは発電/消費(放電/充電)の変化の幅やスピードに差があり、所定の価値を発揮する電源のように動かすためには協調制御が必要です。このために、各リソースの特徴分析と制御手法について研究します。
②スマートインバータ/疑似慣性力の研究
太陽光発電、蓄電池等の増加は、インバータ接続デバイスの増加を意味します。インバータは様々な自律機能を持たせることが可能で、電気の品質をはかる周波数や電圧の値に応じて有効電力・無効電力の出力を自己制御し、グリッドの安定性を支援させることが出来ます。また、火力発電機の減少はグリッドの慣性力を低下させ、安定性低下を招きますが、インバータにその補完機能を具備することができます(疑似慣性力)。系統の安定化、電気の品質維持の観点から、これらのテーマに取組みます。
③国際標準化
こうした研究や外部機関との連携・検討から生まれる国内の優れた技術を、IEC等の国際標準に織り込む活動を行います。特に、DR/VPPの取り組みで確立してきた、分散エネルギーマネジメントの海外展開を進めるため、教育・研修のスキーム構築を行います。