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【プログラム担当者】 研究成果プレスリリース: 目標値7倍を超える高耐久薄膜を開発(山梨大・早大 宮武 健司教授)

 

米国エネルギー省が定める目標値の7倍を超える高耐久燃料電池用薄膜を開発!

芳香族系高分子電解質膜をフッ素系ナノファイバーで複合化し高性能と高耐久性の両立を実現

 

山梨大学クリーンエネルギー研究センター・早稲田大学理工学術院の宮武 健治教授らの研究グループは、酸性基を導入したプロトン導電性芳香族高分子(SPP-TFP-4.0)とエレクトロスピニング法(高分子溶液に高電圧を印加しながら射出してナノファイバーを作製する方法)でナノファイバーシート化したポリフッ化ビニリデン(PVDF)※1から複合電解質膜(SPP-TFP-4.0-PVDF)を作製しました。この複合電解質膜を用いた固体高分子形燃料電池(PEFC)※2は、これまでの課題であった幅広い温度範囲(80~120℃)および湿度範囲(相対湿度30~120%)での高性能と、米国エネルギー省(US DOE)が定める加速耐久性試験(米国エネルギー省推奨試験)における2025年の目標値(20,000サイクル、次世代の燃料電池への搭載に求められる耐久性の指標)を大きく上回る高耐久性(148,870サイクル)を達成しました。

本研究により、一般的なエンジニアリングプラスチックと同様の出発物質である比較的安価な材料から電解質膜が作製でき、これら課題の解決に大きく貢献できる可能性が示されました。

 

【発表のポイント】

◆芳香族系のプロトン導電性高分子とポリフッ化ビニリデンナノファイバーシートから成る複合電解質膜を開発し、現在の性能と耐久性を上回る固体高分子形燃料電池を作成した。

◆複合電解質膜を用いた燃料電池は、米国エネルギー省が2025年の目標値として定めている加速耐久性試験20,000サイクルを大きく上回る148,870サイクルを達成した。芳香族高分子電解質膜を対象とした加速耐久性試験で100,000サイクルを超えたのは、世界で初めての報告となる。

◆従来より幅広い温度範囲、湿度範囲で高性能を示せたことで、クリーンな発電デバイスとして注目を集めつつも、高負荷が要求される次世代燃料電池自動車などへの応用に期待が高まる。

※1 ポリフッ化ビニリデン(PVDF)
熱可塑性の部分フッ素化樹脂の一つであり、図1Bの化学構造を持つ。耐熱性、機械強度に優れており、いくつかの有機溶媒にも可溶であるため溶融成型だけでなく、溶液から成型することもできる。

2 固体高分子形燃料電池(PEFC)
PEFCはPolymer Electrolyte Fuel Cellの略称であり、負極と正極で高分子電解質膜を挟み、負極に水素、正極に酸素を供給して電気を発生させる電池。1つのセルでセル電圧(開回路電圧)は1.0V程度であり、実用的には積層(スタック)させて高電圧を得る。

 

本研究成果は、2023年7月26日(水)に米国科学振興協会(AAAS)が発行するオンライン学術雑誌『Science Advances』で公開されました。

【論文情報】
雑誌名:Science Advances
論文名:Proton-conductive aromatic membranes reinforced with poly(vinylidene fluoride) nanofibers for high-performance durable fuel cells
DOI:10.1126/sciadv.adg9057

 

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【早稲田大学HP】

https://www.waseda.jp/top/news/92296