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九州大学 末廣純也先生 退任インタビューを掲載しました
「北海道から沖縄まで」をつなぐバトン。 13大学連携の“他流試合”が育てた、次世代のエネルギー人材たち。 ―― 九州大学 末廣 純也 先生 退任インタビュー
2018年のプログラム設立当初から、九州大学の責任者としてPEPを牽引してこられた末廣純也先生。北海道から九州まで、全国13大学を繋ぐという前例のないプロジェクトの裏には、どのような想いがあったのでしょうか。8年間の歩みと、そこで見えた学生たちの変化、そして「研究はもうお腹いっぱい」と語る飾らない現在の心境まで、たっぷりとお話を伺いました。
■ 「九州が欠けるわけにはいかない」。林先生の熱意に動かされた船出
―― まずは、PEP立ち上げ当時のお話をお聞かせください。
きっかけは、早稲田大学の林泰弘先生から「電気エネルギー分野を、日本全体で盛り上げていきたい」と声をかけていただいたことでした。林先生の構想は、特定の大学だけでなく、北海道から沖縄まで全国13の大学が連携して、電力エネルギーの未来を担う人材を育てるという壮大なものでした。その日本地図の中で、ここ九州が空白になるわけにはいきません。
当時、学内での調整には正直苦労もありましたが、林先生が2週連続でわざわざ福岡まで説明に来てくださるなど、その並々ならぬ熱意に心を動かされました。「この構想は絶対に実現させなければならない」。そう強く感じて、共に歩む決意をしたことを覚えています。
■ 信頼関係があるからこそできる、本気の「他流試合」
―― 実際にプログラムが始まって、13大学連携のメリットをどう感じられましたか?
私が一番「これはPEPならではだ」と感じたのは、大学の垣根を越えた「学位審査(副査制度)」です。通常、自分の学生の博士論文審査に他大学の先生が入るというのは、指導教員としても学生としても、かなり身構えてしまうものです。「とんでもなく難しい質問が来るんじゃないか」と。
しかしPEPの場合、普段の会議や連携活動を通じて、他大学の先生方とも強い信頼関係ができています。だからこそ、単なる「怖い外部審査員」ではなく、「気心の知れた相手との真剣な他流試合」ができるんです。
本来の指導教員とは違う視点――例えば、私がハードの視点で指導しているところに、他大学の先生がソフトや社会実装等の視点で鋭い質問を投げかけてくれる。それに必死に答えることで、学生の視野がぐっと広がる。私自身も他大学の審査に参加させていただき、多くの刺激をもらいました。この「切磋琢磨」の環境こそが、単独の大学では得られない最大の財産だと思います。
■ 「アカデミア一辺倒」だった学生たちの変化
―― 学生たちの成長についてはいかがでしょうか?
九州大学は伝統的にアカデミア志向が強く、博士課程の学生といえば大学に残って研究を続けるのが主流でした。しかし、PEPに参加した学生たちは明らかに視野が広がりましたね。
PEPには、13大学から選りすぐりの教授陣が集結しています。九大にはいない分野の専門家の講義を受けたり、最先端の異分野研究に触れたりする中で、学生たちの意識が「研究室の中」から「広い社会」へと向くようになったと感じます。実際、博士課程の間にインターンシップに参加し、それをきっかけに企業への就職を決めた学生もいました。これは以前の九大ではあまり見られなかったケースです。
もちろんアカデミアに進むのも素晴らしいことですが、「産業界で活躍する」という選択肢を、身をもって知ることができたのは、彼らにとって大きな糧になったはずです。これまで九大からは5名の修了生が出ましたが、アカデミアに進んだ者も、企業へ進んだ者も、それぞれの場所でPEPの経験を活かしてくれていると確信しています。
■ 学生へのメッセージ:流行に流されるだけでなく、「社会の根幹」を支える気概を
―学生たちへメッセージをお願いします。
今、国策として「AI」や「半導体」といった分野に予算や人が集まっています。どうしても目先の分かりやすい「アプリケーション(応用)」の分野に世の中の目が行きがちだからです。
しかし、忘れないでほしいのは「AIだって、電気がなければ動かない」という事実です。どれだけ最先端の技術が生まれても、それを動かすエネルギーがなければ社会は成立しません。この分野は、これから先も「絶対に人が必要になる分野」であることは間違いありません。
PEPで学んだ皆さんは、産業界と交流し、従来の博士学生にはない広い視野を身につけてきました。その強みを活かし、社会の基盤を支える人材として活躍してくれることを願っています。
■ 研究は「もうお腹いっぱい」。これからは原点の教育へ
―― 最後に、先生ご自身の今後について教えてください。
正直に言いますと研究については、「もうお腹いっぱい」というのが本音です(笑)。ハード系の研究環境を維持するのは大変ですから、第一線の研究からは一歩引こうと思っています。恩師からも「退職したら、若い人の邪魔をしてはいけない」と教わってきましたので、その教えを守って潔く、ですね。
ただ、教育への思いはなくなっていません。今後は非常勤講師として他大学でお話しする機会もいただいています。最先端の研究指導という形ではなくなりますが、初心に帰って、若い学生たちに基礎を教える現場には立ち続けたいですね。電力・エネルギー分野は、これからの社会にとって絶対に欠かせない分野です。その担い手を育てるお手伝いができれば、これ以上嬉しいことはありません。
8年間、本当にありがとうございました。
(編集後記) 「胃が痛くなるような調整も、今では良い思い出」と笑い飛ばし、最後は「お腹いっぱい」とユーモアで締めくくってくださった末廣先生。その温かいお人柄こそが、13大学連携という難しいプロジェクトを支える「鎹(かすがい)」だったのだと感じました。末廣先生、長い間本当にありがとうございました!

