卓越大学院のオンデマンド講義では、「エネルギーイノベーションの社会科学」と題して、環境経済学とカーボンプライシングの基礎について講義をしています。
電力・エネルギーの生産・使用は、PM2.5や温室効果ガスを発生し、市場の外部で大気汚染や気候変動の問題を引き起こしています。中でも、温室効果ガス削減の必要性は高まっています。パリ協定が締結され国際的な機運が高まる中、日本は、2050年までに80%の削減をすることを目標としています。
経済学では、環境問題は市場の外にあるから問題になると考えます。つまり、環境問題を市場の中に入れれば、問題は効率的に解決できるというのです。中でも、温室効果ガス削減を費用効率的、かつ確実に進められる制度が、カーボンプライシングです。カーボンプライシングは、市場の外にある気候変動の問題を市場の中に入れようとする政策です。二酸化炭素に課税する炭素税と、二酸化炭素の市場を作る排出量取引の二種類があります。
炭素税は1990年代にフィンランドで導入されたのを皮切りに、いまではシンガポール、メキシコや南アフリカでも導入されています。排出量取引は欧州のEUETSが二酸化炭素の最初の市場でした。今では、中国でも全国レベルで導入されます。日本でも東京都や埼玉県が排出量取引を導入しています。これらの政策の効果や影響をデータにより明らかにするのが環境経済学の重要な研究テーマです。
また、カーボンプライシングは効率的な政策ですが、家計や企業の負担にもなります。そのため、公平性の問題も無視できません。この公平性と効率性をどうバランスするかも経済学の重要な課題です。
最近では、カーボンプライシングを用いながら経済成長も同時達成しようという考え方もあります。それは二重の配当という考え方です。環境税を用いれば、温室効果ガスを削減できます。これが一つ目の配当です。もう一つの配当は、この税収を用いて経済成長を目指そうというものです。つまり、税収を用いて、法人税減税を行い、企業の投資を活発にするなどして、経済成長を促すことができます。これが二つ目の配当です。実際、ドイツや北欧、カナダのブリティッシュ・コロンビア州ではこの考えで、環境負荷削減と経済成長を両立しています。日本でもこれが可能かどうかを検討するのも大きな研究テーマです。
また、講義では、日本を例に挙げて現行の燃料税制の問題点などにも触れています。カーボンプライシングの現状と論点を網羅した、カーボンプライシングの知識をつける包括的な内容となっています。