修了生インタビュー 村上晃平さん

2024.11.22 / 近況
早稲田大学 |

村上 晃平さん 2020年度修了(現職:University of California San Diego/2025年1月~Electric Power Research Institute)

電力系/早稲田大学 林研究室

 

Q.PEPの参加理由を教えてください。

もともと博士課程進学に興味がありました。修士課程に進学したとしても結局博士課程に行くことになる予感があったので、最初から一貫制博士に入ってしまう方が自分の性格的にもよいと思いました。最初はリーディングプログラムに入り、TD4の時にPEPプログラムに編入しました。リーディングプログラムやPEPプログラムは、経済的な支援があるため、それが博士課程進学の後押しになりました。また、海外へインターンに行きたい気持ちもあったので、その支援が得られることも大きかったです。

 

Q.PEPに入って満足している点はなんですか。

博士課程は学生数が少ないこともあり、基本的に所属研究室のコミュニティが主になるので、どうしても人間関係が閉鎖的になりがちだと思いますが、PEPプログラムは専攻や大学が異なる博士学生と知り合うことができることが良かったです。また、パワーリソースオプティマイズ講義では、電力システムの研究をしている他大学の大学教員の話をたくさん聞くことができます。これを履修して「こういうトピックもあるのか」と、研究に対する自由度が高まりました。

講義で一番記憶に残っているのは事業創造演習です。自分たちでビジネスアイデアを考えるにあたり、先生に教えていただいたメソッドに則って事業計画を立てていく一連の流れは、初めての経験でした。それ以降、ユニークなビジネスをしている人に出会ったとき、どういうビジネスモデルだろう?と考えられるようになりました。

 

Q.これまでのキャリアについて教えてください。

私は、学生の時にElectric Power Research Institute(EPRI)に約4カ月間インターンに行き、いろいろな経験をしました。そして、アメリカで働くということに対して、インターン期間でモチベーションがロックされたと思います。EPRIでは、働いている人たちが常に使命感を持って働いている姿が印象的でした。ミッションが明確であったし、クライアントのために、そしてクライアントが求めているものよりも一歩先を提示することを念頭に話しあっている姿を目の当たりにしました。働き方も当時の自分にとっては新鮮で、各自が定時の時間内で効率的に仕事をすることに徹しているように見えました。自分は、大きな仕事をするときは、とにかく時間をかけて働くという方法しか知らなかったので、効率を重視した働き方で良い成果を出すことに憧れました。そして、チャンスがあればここで働きたいと思っていました。

博士号取得後は電力中央研究所に入所しました。電力中央研究所は、業種としてはEPRIに近く、いずれ海外に出ることを目標に研究者としての自信をつけたいと考えていました。結局、焦る気持ちを抑えられず、入所した年の暮れ頃から渡米も視野に入れて転職の準備を始めて、2022年にUniversity of California San Diego(UCSD)でポスドク(博士研究員)として働き始めるに至りました。UCSDでは、マイクログリッド(発電と需要リソースが隣接した、独立運転可能な電力網)を使った分散型電源の分散型制御・最適化のための実証設備の構築に関するプロジェクトのメンバーとして、電力系統のモデリングや電力機器とDERMSの通信の接続・試験を行っています。そして、2025年1月からは、アカデミアでのキャリアに一旦区切りをつけて、学生の頃インターンシップでお世話になったEPRIで働き始める予定です。

 

Q.UCSDで得たものは何でしょうか。

現在携わっているプロジェクトは多岐に渡るセクターの技術が必要であり、様々な領域の専門家が集結しています。このような大規模なプロジェクトに関わる中で自分が成長できたと思うことは、何か新しいことを行う時の思考の変化です。私の性格には完璧主義な面と少し後ろ向きな面があって、たまに物事を否定的に捉えてしまう癖があります。しかし、同僚たちは、あるタスクが完璧にはできないとわかった時に、“できない”で終わるのではなく、何をすると完璧じゃなくても“できる”のかを考えるのが上手でした。そのマインドを見習ううち、自分も完璧さではなく可能性を広げる方向で物事を考えられるようになったかなと思います。

他には、私は学生の頃から応用研究寄りの研究をしてきたので、理論を研究するような基礎研究は苦手でした。UCSDで研究する中で、基礎研究の考え方や、苦手だった複雑な数式が大量に使われた論文も理解できるようになり、理論的な思考もより強化されましたように思います。また、異なる文化を持つ人たちとのパートナーシップの構築についても学ぶところがありました。たまたま、私はスペインのチームと一緒に仕事をしているのですが、アメリカとスペインとでは当然のように働き方の文化が異なります。そういった背景の違いが起因する大小様々な問題をこれまでに見てきましたが、冷静に受け止めて対応するなど、多様な背景を持つチームで働くときの心構えが身に付いたように思います。PEPプログラムでは専門性や柔軟性、やり抜く力を伸ばせる経験をしましたが、それがUCSDでの経験でより強化されましたし、成長できたと思います。

 

Q.今後のキャリアについて教えてください。

これまでアカデミアの研究者として成功することを目指してきましたが、そのキャリアはいったん区切りをつけることにしました。自分の一番の興味は研究の成果を以てよりよい社会を実現する”人助け”であり、研究は自分にとっては目的ではなく手段であると気づいたからです。EPRIでは研究に加えて研究プロジェクトのマネジメントの業務や研究の評価も行います。つまり、キャリアチェンジになります。20代半ばから自分の頭の中に居続けた研究者としてのゴールを払いのけて、別の道に進み始めることに対してはもちろん不安もあります。UCSDのポスドクはそのゴールに近づくための選択でしたが、結果的に自分が本当にやりたいことが明確になり、いくつかの悩みにけじめをつけることができて満足しています。将来的には電力業界での問題解決と、長期的な学術界への投資とのバランスをとっていける人材を目指して、EPRIではその一歩を踏み出せるのではないかとワクワクしています。

 

Q.PEP生にメッセージをお願いします。

PEPプログラムでは、外部から色々な刺激が得られるので、世間一般に言われるような内向的な博士人材像からは離れた人材になれると思います。また、PEP生に限ったことではないですが、研究の世界も人間社会の一部です。先生だけでなく事務の方も含めて自分を支えてくれる人との出会いや繋がりは非常に貴重なものですし、そういった方々への感謝の気持ちと助け合う気持ちを持って欲しいと思います。本当に困った時というのは人同士の助け合いが肝要です。PEPでは、色々な人との出会いがあります。そこからどのくらいネットワークを広げられるかは個人の心持ち次第となりますが、頑張ってください。