宮澤 歩夢さん 2023年度修了(現職:東京ガス株式会社)
電力系/早稲田大学 林研究室
Q. PEPへの参加を決めたきっかけは何ですか?
私は社会人編入枠でPEPプログラムに参加しました。博士入試を決める前からPEPプログラムは知っていたのですが、一貫博士プログラムのイメージが強かったため、自分が参加できるとは思っていませんでした。しかし、指導教員から社会人枠の選択肢があることを伺いました。私は電力系が専門ですが、その知識が自分の研究テーマに限られてしまうよりも、マテリアル系も含む専門知識を幅広く身に着けられるPEPプログラムにもチャレンジしてみたいと思い、参加を決めました。
また、社会人の立場ではなかなか足を踏み入れることは難しい他社・他機関の見学ができることも魅力でしたし、実際に貴重な機会を得ることができました。そして、同じプログラムに参加する、他の社会人学生さんとの交流にも期待をしていました。
Q. 社会人学生として、仕事と研究の両立についてはどうでしたか?
本業との両立を前提に会社より進学の承諾を得ましたので、平日の夜や土日を活用して研究活動を行っていました。困難さもありましたが、研究活動が自分の業務や社会人としてのスキルアップに直結していると実感していましたので、研究活動や知識の向上を楽しんでいました。PEPプログラムは一般的な社会人博士課程よりも、修了要件として求められる条件が高いと思います。例えば、産学連携の経験や、国際学会での発表が求められることなどです。しかし、社会人博士として勉学や研究の時間が限られる中、あえてハードルを上げていろいろなことにチャレンジできる環境に飛び込み、厳しい道を行ったことは、自身の成長の面で良かったと感じています。また、現役の学生さんは自分の研究が社会にどう役に立つのかを明確にするのが難しい部分もあると思いますが、私の場合は自身の研究が自社に還元されることも、モチベーションの維持に繋がっていました。
Q. PEPの必修科目を受講した感想について教えてください。
事業創造演習はちょうどコロナ禍でオンラインとなり、本来のように対面、合宿形式で受講することはできませんでしたが、その中でもグループワークなどで、年代を超えて意見交換ができました。社会人としての視点からアドバイスをしたりもするなかで学生との間に繋がりができ、一緒に事業を考える経験ができてとても楽しかったです。
パワーリソースオプティマイズの国際標準化演習では、スマートメーターや、スマートホームの通信など実践的な演習を行いました。私はガス会社に勤めており電力事業にも関わるのですが、機器を実際に触ってみる機会は中々なく、非常に貴重な経験をさせていただいたと思います。将来は研究開発の立場で国際標準化に関する業務も経験してみたいです。
Q. PEPの修了要件「他機関との共同研究」に関するエピソードや、コンサルティング教員や他大学教員など、自大学以外の教員から学んだことがあれば、そのエピソードをお聞かせください。
コンサルティング教員は同研究室の石井先生でした。指導教員の林先生とは異なる視点からの指導を受けられたことは、知見を広げる助けになりました。石井先生は、国際標準化を専門とされていることもあって、電力市場の制度などに非常に見識が深く、今後の電力市場の展望や、制度がどうなっていくのかなどを学ばせていただきました。
共同研究は、所属する東京ガスと実施しました。そこでは、事業的な観点をしっかり見極めなければならない社会人としての立場と、研究としての意義が重視される学生としての立場が重なり、指導教員も上司も、両者を説得できるような研究テーマを立ち上げる必要がありました。会社としても大学研究としても意義あるものにどう仕上げていくか。そういった点は、修士の時とはレベル感がまったく異なっており、PEPプログラムをやっていく中で一番大変だったと個人的には思っています。
Q. PEPプログラムを通してどんな力が身につきましたか?
共同研究力が特に身に付いたと思います。会社として新たに産学連携のテーマを立ち上げることになったときに、会社側の視点と、共同研究先である教授、研究室側の視点が、どういった形ならウィンウィンの関係でまとめられるかを、1から組み立ててプレゼンを行い、最終的に共同研究の実施まで至ったという、一連のプロセスを実際にやり遂げることができました。まさにPEPでの経験が活きた例だと思います。
あとは俯瞰力ですね。コンサルティング教員の石井先生とのやり取りも通して、市場の制度や市場動向などを踏まえながら、どんな研究をするべきなのか、どんなところを詰めていくべきなのかを判断する力は、PEPプログラムがあったからこそ身についたと思います。
Q. 博士号を取得したメリットと、今後のキャリアイメージについて教えてください。
私は、総合職として入社後に営業部門に配属されました。しかし、自分のキャリアプランとしては、研究ベースの事業開発に関わっていきたいという思いもありました。今回、博士号に挑戦する姿勢、そして取得したことを会社にしっかりと示せたことで、キャリアプランを実現する道を切り拓くことができたと感じています。また、海外では研究職は博士号を取得することがスタンダードであると知っていましたが、やはり博士号をとったことで、仕事で関わる海外の取引先から注目され、技術的な話をスムーズにできるようになったという印象があります。
今後のキャリアとしては、このPEPプログラムや社会人博士で学位を取ったことをきっかけに、電力系の知識あるいは研究の中で培ってきた機械学習系の知識を活かして、技術者として専門性を深める形で会社に貢献していきたいと考えています。将来的には、会社全体の研究、新しい技術を開発する原動力のようなところに長期的には関わっていきたいと思っています。
Q. 後輩たちにメッセージをお願いします。
仕事は巡り合わせのような部分も大きいです。入社前と後とで、描いていたイメージとのギャップに苦しむこともあるかもしれません。自分の目指す方向、キャリアプランを改めて見つめ直し自ら道を切り拓いていくことが大事だと思いますし、その武器の一つとして学位は必ず役に立つと思います。
また、PEPは事業創造演習など、一般的な博士課程ではあまり触れられない、事業とのかかわりを非常に大事にされているプログラムだと思います。学生の方は、自分の研究テーマが事業としてどう活きてくるのかを常に意識し、大事にしてほしいと思います。研究としての意義はあるけれど、社会実装にはうまく合わないとなると少しもったいないと感じます。PEPプログラムという環境を十分に活用し、事業創造についてもしっかり見据えたうえで自分の研究テーマをブラッシュアップしていくのが大事だと思います。
Q. 社会人として博士課程進学を検討している人にメッセージをお願いします。
私は20代で社会人博士に進学しました。30代や40代になると、仕事の責任が更に大きくなってきたり、家族ができたりと、オンでもオフでも制約が増えてしまい、博士号を取ろうと思っていたけれど機会を逃してしまったという話も聞きます。もし、就職を選んだけれど、やっぱり博士課程への興味も捨てきれないのであれば、なるべく早くチャレンジすることが、その後のキャリアの観点でも良いのではないかと思います。また、研究者としての立場と会社員としての立場の両方の視点から、研究や事業開発に取り組めたのは、とても貴重な体験でした。社会人博士ならではの、他に代えがたい唯一無二の経験ができると思います。